離婚した私

離婚についてのあれこれ、結婚していた頃のエピソード、独りで生きる自由と孤独を書いていきます。

離婚してようやくカサンドラは報われるのか

夫はどういう人だったか?

問われても、うまく答えることができない。

5年間、思い出さないようにしていたのもあるが、

20年間一緒にいて、ついに正体が掴めなかったことが大きい。

 

喜怒哀楽の表現が、極端に薄い。

こういうのは自然に湧いてくるものだと思うが、

彼の表現には、常に不自然さがつきまとう。

彼の大笑いを遂に聞かなかった。

さんまみたいな引き笑いばかりしていた。

「かわいそうだね」という、

人に同情する言葉も聞かなかった。

その代わり、仕事の愚痴も全く言わなかった。

自分がしたいことは相談無く勝手にやっていた。

私の話は半分以上理解できないと言っていた。

自分の意思があるのか無いのか。

人の模倣ばかりしていた。

 

「正体が掴めない」という理由を羅列することで、

皮肉なことに、彼の輪郭がはっきりしてくる。

 

ひょっとしたら彼は、アスペルガー症候群だったのでは?

と、つい最近考えるようになった。

 

アスペルガー症候群の伴侶を持った者は病んでいく。

苦悩を人に語っても、理解されないことが多いのだ。

夫の外の顔は、模範的な、良人(おっと)。

人の話を否定せず、

決して自分の意見を言わず、

にこにこ聞いているだけの夫は、

誰が見ても善い人だ。

 

人の心の些細な動きがわからないから、

口を挟めず、自分が思っていることが言えなかったのではないか?

 

こんなことがあった。

 

飛行機の搭乗時間を守れず、

夫が飛行機を止めたことがあった。

度々、彼は、自分の身元が割れない所では、傍若無人なのだ。

最後の搭乗者(夫)を待っている間、

飛行機のエンジンに不具合が見つかったという。

夫が搭乗するやいなや、

全員を機内から降ろすアナウンスが流れた。

結局、飛行機は点検に時間を費やし、

1時間半遅れて飛ぶこととなった。

 

「俺が遅刻したから、乗客全員の命が救われたんだ」

これはギャグではない。

大真面目に夫が語った言葉だ。

聞いてた息子が、思わず吹き出した。

呆れた私も、「凄いね、神様だね」

「神だわ」息子も笑いを堪えてつぶやく。

夫はずっと真顔で、「俺のおかげだ」と言っていた。

 

こんな風に、たまに自分を主張するときは、

あまりにも赤裸々で傍若無人なのだ。

会社でも時折指摘されたらしい。

「店長は時々、びっくりするようなこと言いますよね」と。

 

本人は、どうして自分の発言が引かれるのかわからない。

わからないけれど、顰蹙を買っている自覚はあるのだろう。

余計なことを言わなければ大丈夫だ、と学習していく。

 

人に、夫の困難さを訴えても信じてくれない。

私が疲れを隠さなくなってからは、私にも本心を言わなくなった。

さんまのような、引き笑いが耳に残るだけ。

どんどん夫の正体は不明になってゆき、

むなしい日々が何年も続いた。

 

アスペの伴侶はカサンドラと呼ばれる。

ギリシア神話で、アポロンから呪いをかけられた王女である。

「お前の予言を誰も信じない」という呪い。

カサンドラはその後、凌辱され、貶められ、命を落とす。

 

カサンドラ症候群について知ったのも、つい最近のことだ。

自分の中の如何ともし難いモヤモヤの正体。

夫に疲れ果てた理由が、自分でもよくわからなかった。

 

私の両親は、よく夫を褒めていた。

しかし、私と他人となった今、

私の両親は彼の中で「他人の中の他人」となったらしい。

夫名義で、息子だけが住む家の、

庭の手入れから雪かきまで、私の父が行っている。

夫は何一つせず、礼のひとつも無いという。

どう思われてもよいのだろう。

ようやく傍若無人アノニマスとなった。

 

私の実家の人間は、誰一人、もう彼を誉めることは無い。

離婚してやっと、カサンドラの主張が認められるとは皮肉なものだ。