隅田川沿いの桜は、もう黄緑色の葉っぱが目立っていた。
「もう少し早かったら良かったのにな。」
残念そうに言うそのひとに、笑いながら私は言う。
「このくらいが丁度いいよ。」
「ん?もう散りそうなのがいいの?」
「うん。だって似合ってるじゃん、うちらに。葉桜。」
そのひとも声をたてて笑った。
「そっか。葉桜って感じね。」
延々降り続く花吹雪は、逆光で、嘘みたいに綺麗だった。
「ちょっと待って」
そのひとの声に立ち止まり振り返る。
黙って、私の髪に絡んだ花びらを指でつまんだ。
突然、全身を、羞恥と幸福が駆け巡る。
誰にも祝福されない、はじまりの日。