離婚した私

離婚についてのあれこれ、結婚していた頃のエピソード、独りで生きる自由と孤独を書いていきます。

キカイダーでハカイダー

夫はハカイダーだった。

何でも破壊する。

手先が不器用なうえ、

力加減がわからない。

 

覚えたてのセックスは悲惨だった。

いつまでたっても痛い。

どこが、って、

髪も肩も腕も背中も足も腰も、痛い。

全体重を載せられて、息ができない。

 

何度目かの時、

「苦しい。痛い。乱暴すぎ」

と苦情を言った。

愛撫の愛がわからないのだから仕方なかったのだ。

それからは妙にふわふわした所作になった。

 

組み立て家具には、

たいがい、ヒビが入った。

息子のプラモデルは私が作った。

 

強烈に憶えてることがある。

 

正月休みで、私たちは私の実家に泊った。

大雪が降って、一家総出で雪かきとなった。

息子は歩道の雪で遊んでいた。

ちょっと目を離した隙に、息子が車道に飛び出してしまった。

「あっ!」

大きな声で私が叫んだ。

車はまだ息子までだいぶ距離があったが、

思わず叫んでしまった。

 

一番近くにいた夫が、息子の元に駆け寄った。

そして、

 

思いきり息子の頭をぶん殴った。

 

息子はまだ4歳くらいだった。

息子を地面に叩きつけたのは、車ではなく夫だった。

 

うつぶせのまま大泣きする息子。

停まった車の運転手の「?」顔。

唖然とする家族。

気まずそうな苦笑の夫。

優しく息子を抱き起したが、

取りなしてももう遅い。

 

「あんなことする人なの?」

夫に絶対的信頼を寄せていた母は、

頭の中に疑問符がいっぱいだったろう。

「とっさに出ちゃったんだねぇ・・・」

私は呆れながらつぶやく。

守るより、

危険な行動をした子どもに制裁を加える方が先。

婚姻中、夫の素を目撃したのは、

父も母もこれが最初で最後だった。

 

どこでも温厚で通ってた夫の失敗だ。

 

普通基準と違う自分を、

自分でプログラミングしなおす技術が、

なんとか夫にあったのがせめてもの救いだ。

人の顔色をうかがう癖がなかったら、

近頃のニュースのように、

息子は死んでいたかもしれない。

 

定型ならば想像できるであろう力加減を、

いちいち夫に教えなければならない。

大事なものが壊される前に。

 

そうしてるうちに、心は壊れていったけれど。